「2017年ベストアルバム」

新年になってからいつも前年のベストアルバムを選んでます。いつもならすぐ決まるんですけど今回は迷ったー。良いアルバムは多かったんですけど、これ!というのがなくて。なので10枚はとても厳しかった。この10枚と同じくらいだなぁーって思うのはあと15枚くらいあるかな。で、これが僕の2017年アルバム。

1.Electric Trim/Lee Ranaldo
2.Sleep Well Beast/The National
3.A Deeper Understanding/The War On Drugs
4.Colors/Beck
5.Villains/Queens Of Stone Age
6.Salutations/Conor Oberst
7.Song Of Experience/U2
8.Semper Femina/Laura Marling
9.Drunk/Thundercat
10.Hug Of Thunder/Broken Social Scene

今回はアメリカやカナダの充実したインディー王道バンドのリリースラッシュ。アーケイドファイア、スプーン、フリートフォクシーズ、シンズ、ダーティープロジェクターズ等も充実策を出しましたが、どのバンドも今までの作品と比べて抜けてるとは思えなかったかな。グリズリーベアを買えてないのは反省。

その中でナショナルは今までと比べても何かしっくりきた。実験性はむしろ増してるし、ポップになったって感じはないのに深みは増し、力強くなったような感触があります。自分と波長が合って来ただけかもしれないけど(苦笑)あとブライトアイズ名義を期待しちゃうコナーも良かった。ソロでは一番好きかな。シンガーソングライターの着実な作品って感じです。昔のストレンジな感じはなくなったけど、この人はこれで良い気がします。

そしてブロークンソーシャルシーンは完全に最高傑作。音がデジタル処理された感が強すぎる嫌いはありますが、今まであったアーケイドファイアの二番煎じ感は払しょくできたかな。アーケイドファイアは葬式でダンス!みたいなオリジナリティーがあるんだけど、もっと平熱でダンスしてる感じにブロークンソーシャルシーンはなってると思います。余談ですが今の時代のスタジアムロックってこういうことかな?と思います。それはレディオヘッドがビッグになったことで、単純で大文字のロックがやりにくくなった。その隙をついてアーケイドファイアとコールドプレイが作ったのが今の時代のスタジアムロック。音は入り組んでいるけれどビッグなメロディーが必ずあって、サビに向かって繊細な音を積み上げ、サビでドーンと突き抜ける。思慮深さと快感原則を両立したロックサウンド。ジョー・チッカレリ仕事って感じですな。

そしてオルタナティブ番長的なソニックユース組とベックもコンスタントにリリース。ソニックユース組のリーとサーストンはどちらも良いアルバムでしたが、やっぱり僕はリーが好き。あのジョージハリスン的な丁度良い立ち位置が最高。そして今まではポップな曲をやる時に気負いだったり照れみたいなものを少し感じてたんだけど、やっと板についてきた気がします。リーのポップの温度が一番しっくりくる。サーストンは頑張ってソニックユースの看板を背負ってる感じがするけど、リーは自由で良いね。

ベックはあっぱれ。ポップにあんなに飛び込むなんて。やる時はやり過ぎなくらいやるのがベックの楽しいところ。正直フェニックス聴いてるのか?ってくらいポップな音。好みとしてはブルーズ感が薄れ過ぎとは感じるけど、ポップをやるには邪魔だったのかな。軽薄な音なんだけど何回も聴ける。さすがベック。

そしてセカンドアルバムの失速を免れたのがウォーオンドラックス。この人はチルウェイブとディランの融合だと思ってたんだけど、今回のアルバムで一つ気付いた。それはブライアン・アダムスとの類似性。いや本人絶対嫌がると思うけど、あの大陸的なメロディーをどこかに感じる。そしてそこがとても好きです。

さらにアメリカインディーに当てはまらない鬼っ子ハードロックのクィーンオブザストーンエイジも良かった。この人達の雑食性と貪欲さを表すようなマーク・ロンソンと組むというチャレンジ。そのアイデアを実践しちゃのが良いよね。しかもしっかりその成果も出てて。孤高のロックバンド。

そしてベテランのU2がこんな良い作品を作ってくるとは意外でした。正直前のアルバムはあんまり好きじゃなくて、そんなに期待してなかった。それがしっかりソングライティングに焦点を絞って、良いアルバムを完成させてきた。他にもデペッシュモードやポールウェラーシャーラタンズ、ライドなんかも良かったね。英国はベテランが元気でした。ちなみに良い曲しか書けない病気のノエルさんは今回も美メロの嵐。でもサウンドに色気を出したらちょっとぼやけたかな。ノエルに期待してるのは曲だけなので、誰かほかのアレンジャーとやって欲しい。小林武史でも良いよ(笑)ニールフィンの焦点の絞れたアルバムを見習って欲しいかな。

2017年の反省点は新しい音を探せなかったこと。まあ経済的事情もあるんですが(苦笑)もっと新しい音を探したかった。その中でも新しい出会いはローラ・マーリング。ファイストをもっと室内楽的にした感じで、静かな部屋で一人で聞くのにぴったりな音楽でした。音の一つ一つの手触りを感じるような音楽。さらに流行りの越境的なジャズの人、サンダーキャットのアルバムも良かった。カマシ・ワシントン程の出会い頭感はなかったけど、AORを現代的にしていく感じはとても面白いです。

他にはフェニックス、LCDサウンドシステム、ケンドリック・ラマー、マシュー・スウィート、ホラーズなんかも良かった。日本だと高橋徹也さんとHi-5、ナッヂエムオール、ゴーイングといった身近な人から良いアルバムが届きましたね。the MADRASのシングルもか。そしてコーネリアスもいた。うん。

2018年も僕はアナログもCDも買うと思います。そういう文化圏に生きてる。それが現代的なのかどうかはわからないけど、そんな生活を通して音楽を作りたいです。音楽で生きる人なんだから当たり前なんだけどね。

「All is Calm,All is Bright/H i-5」


遂にリリースのH i-5のニューアルバム。この機械仕掛けのパンドサウンドがなぜこんなに有機的なのか。このおじさん3人がセッションで作り出すメロディーがどうしてこんなに青いのか。こんなどこにでもいそうな気の良い3人が作る音楽がどうしてこんなに普遍的なのか。

大学時代から変わらぬ友情で結ばれた3人が、それぞれ紆余曲折ありながらも音楽をまっすぐ見つめ続け、今も全く変わらないフレッシュな気持ちで同じように3人でバンドをやってる。これって実はものすごいことだからね。バンドの活動期間の長さでいったらもっと長い期間のバンドも勿論あるだろうけど、気持ちの変わらなさ、新鮮さはギネス級だと思う。そしてまた新しいアルバムで最高到達点を超えるって、これは奇跡でしょ。

タケダ君の持つ根源的な青さを守る為に、オダ君とテッペイやんは腕を磨いて鉄壁のアンサンブルを作ってきた。それぞれが他の現場で使命をされるくらい腕を上げたことで、新しい地平が見えてきた気がします。

まあでも、それでもこのバンドの真骨頂はライブ。一回も見たことない人は見て欲しいなあ。所謂打ち込みのバンドとは全く違う音だから。ルックスに派手さはないですが(苦笑)音楽は輝いてますよ。誰が見たってわかるくらい凄いんだから。

今度の日曜には下北251でリリースパーティーだそうです。しかもハイフラ、マドラスホンダレディが一緒だってよ。よだれだらだらなライブ。俺は行くぞ。

「Ti Amo/Phoenix」


今やフランスを代表するバンド、フェニックスの新作。

とにかく気持ち良ければ良いだろ?っていう軟派なスタイルが持ち味で、いつもスウィートな甘ったるいメロディーをその時々に旬なサウンドに乗せてくる。まあ毎回毎回スタイリッシュ。でも前作は少し頭でっかちというか、考え過ぎじゃね?というところがあった。そして今回は軟派で軽薄なスタイルに舞い戻ってて、心地よさ最優先。ここが気持ち良いんでしょ?と呟くジゴロのようなくすぐり具合です。

いやあフェニックスはこうじゃなきゃなぁ。この10年僕のフェイバリット10に入り続ける大好きなバンドです。

「Hot Thoughts」/Spoon


アメリカインディー界の良心、スプーンのニューアルバム。
デスキャブ、モデストマウス、ディアハンター、ナショナル、シンズといったバンドによって攻勢を極めたアメリカインディーバンドシーンは今も活発に動いてますが、チャート的なところでは難しい時代に突入してます。このスプーンの新作のチャートアクションも厳しかったらしい。

でも、それでこのアルバムの出来が悪いかといったらそんなことはなし!今回もスプーン印の実験的な音響の世界。ドラムの音とかめちゃくちゃ特徴的だし、その定位のさせ方は他では聴けない。全ての音がどこかささくれ立っていて、迫力のある音が組織立ってこちらに向かってくる。でも流れるメロディーはどこか優しく、懐かしい感じで、実験的な音楽に有りがちなとっつきにくさは全然ない。そして今回は絶妙なファンクネスもあり、同時代の音への目配せも隠し味的にあって飽きさせない。

これは音楽愛なんだと思う。この人達は愚直に音楽を信じてる。そこがとても清々しく、まっすぐ響いてくる原因だと思う。まあ音楽愛だけで立ち回れるような世界ではないんだろうけど、こんなバンドがあっても良いと思う。このバンドには生き残って欲しい。こんなバンドが生き残れないなら、ポップミュージックは死んだんだと思う。スプーンはいつも裏切らない。絶対。いつだって信頼出来るバンドだから。

「DAMAGE AND JOY」/JESUS & MARY CHAIN

ジザメリの新譜がまた聴ける時が来るなんて!19年振りですよ。前は90年代かい。

しかし何も変わらないように見えるジザメリですが、ちゃんも進化もしております。確かに曲はいつだって甘美なトロトロメロディーですが、サウンドは初期のスピーカーぶっ壊れた感じから、ハニーズデッド期のダンスアプローチ、その次のアコースティック、そして休止前はある意味王道のロックンロールと変化してきました。今回は全てを踏
まえた感じで、さらにストリングスやオルガンが入ったりと、ここでも進化を見せてます。

ただ今回の進化は今までと違い、デジタルの録音環境でジザメリサウンドをどう響かせるか試行錯誤した結果のように思います。音と音を滲ませるのが彼らの流儀なのに、今回はとても分離が良い。でも聴こえて来るのはジザメリ印に聴こえるから、この試みは成功じゃないかな?アコースティックアルバムを作った時ととても違い気がします。

クリエイションのおっさんに愛される女、スカイフェレイラも参加。過激なジザメリが好きな人にはどう聴こえるのかはわからないけど、僕はとても好きです。いやしかしいつも必殺のメロディーだよなあ。自分のルーツの1つなことは間違いない。

「Stranger to stranger」/PAUL SIMON


サイモン&ガーファンクル時代から芳醇な音楽、音作りの人でしたが、ソロになってからのポールサイモンの音楽的な探究心にはさらに頭が下がります。それはこの昨年発表した最新アルバムでも顕著でした。

もう完全におじいちゃんのポールサイモンが、さらにおじいちゃんのロイハリーを共同プロデュースに担ぎ出し、作り出したのは名作「グレイスランド」をアップデートさせたようなリズミックな傑作!おじいちゃん同士、昔を懐かしむような作品かと思ったらとんでもない!レディオヘッドやらのレフトフィールドへはみ出していくミュージシャンの作品と比べたってもっとスリリングで、エッジが立ちまくりの鳥肌ものの作品。

中でも特筆はイタリアのストレンジ極まりないリズムミュージックを作るクラップ!クラップ!を起用してるところ。この全く衰えてない嗅覚には恐れ入る。自分が試聴した音楽の中でも、おっ!と思えるものをおじいちゃんがチョイスしてくる驚き。しかもそのサウンドを完全に我が物にしてる。まあクラップ!クラップ!自体が「グレイスランド」の末裔みたいなものなんですけどね。

まあとにかくチャレンジングでありながらきっちりポップに着地してるところが素晴らしい。ポールサイモンの音楽がつまらなかったことなんて一度もない。ティーンが聴くには高尚すぎる気もするするけれど。昨年のナンバーワンはこれにするべきだった。後悔。

「Salutations」/Conor Oberst


ブライトアイズのコナーオバーストの新作。元々はローファイの世界にいた人ですが、キャリアを重ねるごとにオーソドックスな音にはなって、最近はルーツ志向が顕著な音に。でも正直ブライトアイズ名義からソロ名義になって、何か零れ落ちたものがあるのかなぁ?と思ってました。

しかし、この新作でやっとバランスがぴったりに合った気がします。元々歌声がエキセントリックなので、十分パンチはあるんですが、その声に負けないメロディーとアレンジで、しかも真正面からの美しいアレンジでバランス取れたのが素晴らしい。どうしてもこの声だと奇抜に行きたくなるよね。ついに達成した普遍性がありながら、刺さる音楽。今年のベストアルバム候補ですな。またライブ見たいな。