田村君写真とボクの文章のコラボレーション3回目
「ボクのスニーカー」
このスニーカーがあれば、何処へでも行けると思っていたんだ。
北極にだって行けると思ってた。
鼻を垂らしたボクの世界は、半径1キロにも満たなかったけれど、
想像の世界は、限りない地平線が広がっていたんだ。
だけど、それから様々な登り坂と、曲がり角と、行き止まりを繰り返し、
辿りついた場所はこの場所だった。
誰かの声は聞こえるけれど、ボクの声は届かない世界。
するとスニーカーが急にボクに呟いた。
「僕はまだ行けるよ。穴も開いてないし、ちょっと底は磨り減ったけれど、
空を飛ぶわけじゃなし。キミが声を届けたいなら。」
不安なボクはうつむいたまま、世界の底を見つめていた。
小さな虫が、チューインガムに集まっている。
「キミは声を出したことがあるのかい?声を届ける気はあるのかい?」
スニーカーがボクを見上げながら、挑戦的な声で言う。
小さな虫はそれぞれの役目を黙々とこなす。
チューインガムは少しずつ姿を変えていく。
誰かに踏まれた小さな虫が、体を捻じ曲げて動いてる。
ボクは膝に力を入れて静かに立ち上がった。
もう遅いかもしれないけれど、ボクには行くべき場所がある。
伝えるべき言葉がある。
このスニーカーがあれば、何処へでも行けるんだ。
スニーカーは嬉しそうな顔で世界へ飛び出した。
履き古したスニーカーはなんでも知っている。
靴底のチューインガムは何も知らないけれど。
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田村直希写真サイト