レビュー:「electric nightscape」/Mizobuchi Kenichiro

セロファンの経歴を持ち、現在はDQSの首領にして、カスタネッツやKGSS ON THE PEAKSでも活躍するドラマーにしてソングライター、溝渕健一郎のソロ作。前作は弾き語りを中心にした作品だったけど、今回は年代的にもルーツのひとつであろうエレポップに真正面から取り組んでいる。元々英国的な少しひねったポップセンスを持ち、サウンドセンス的には音響系の感覚もあるし、リズムはドラマーならではの緻密かつ大胆な作りなので、音楽マニアにも大満足な完成度。だけどそんなことより注目はニューロマンティックの時代を感じさせながらも、独特な陰りを魅せる聴いたことのない音世界。一番近く感じるのはアメリカのチルウェイブの代表格、トロ・イ・モアかなぁ。でももっとなんというか、ロマンティック。
それはきっと声なんだと思う。色気と陰りと男気を響かせながら、なんとも儚い声。サウンドやらメロディーやら素晴らしいところはいっぱいあるんだけど、声がすべてを持って行く。これってシンガーソングライターに一番必要なやつですよね?声って全部出るからね。きっと音楽と声と人が完全にリンクしてるんだろうなぁ。
もはやドラマーとか関係ない、一人の音楽家が作ったロマンティックな私信。こんなにエレクトリックなのにとてもパーソナルで手触りを感じる作品です。この路線絶対支持。