源泉

僕は彼女の命綱だと思っていた。それは思い込みかもしれないし、単なる自己陶酔かもしれない。でも確実にあの一時期、彼女と接して言葉や感情を交わせるのは僕だけだった。

結局僕は今彼女と一緒にいない。僕は彼女を救えたのだろうか?いやそもそも救う必要はあったのだろうか?もしかしたら僕が追い詰めていただけなんだろうか?

裸足で外に飛び出す彼女を追って街中に走り出した時も、家で暴れて全ての家具を投げる彼女を正気に戻す為にビンタした時も、嘘をついているのがわかっていても全て飲み込んで無理に笑っていた時も、全ての記憶に薄い靄がかかっている。

ただ一つ言えることは、僕が今ここにいるのは彼女のおかげ。平凡という小さな船に乗っていた僕のことを、思考と感情のヒリヒリした海に引きずり込んだのは彼女だ。あれがあったから僕は今も曲や詩や文章が書ける。もしかしたら喋る言葉もすべて彼女を通してるのかもしれない。そのくらい今の僕はあの一時期を通して生きている。

家族との幸せな日々が続いても、ヒリヒリした感覚か僕から無くなることはない。そのくらい強烈な季節を僕は過ごしてた。これは財産と言っていいのだろうか?それとも単なるトラウマなんだろうか?薄暗くて、ドロドロして、でもとても美しいトラウマ。強烈な赤い色彩を放つトラウマ。

それが僕の源泉。