優しさの伝染

あの日。僕は会社員でありながら、育児休暇を取って家にいました。しかもミムラスと初めて共演するライブが予定されていて、それの用意をしながら。

あの瞬間はたおを抱きしめたことしか覚えてません。自然と1歳の我が子を引き寄せ、抱きしめていました。突然現れた邪悪なものに反応したかのような、本能の動き。守るべきものがいる人間の本能。幸い我が家の揺れは少なく、被害もありませんでした。

しかしどんどん情報が入るにつれて、被害の大きさを目の当たりにします。嫁は会社から歩いてなんとか帰ってきました。ミムラスは家の中がめちゃくちゃになったらしく、とても怯えていたので、我が家に呼んで泊まらせました。さらに嫁の弟も家に帰れないというので泊まりに来ました。あの日の我が家はみんなで肩を寄せ合う縮図のような形でした。

その数日後、水が放射能で危ない、とのニュースが飛び交いました。地震でたおのことを心配した父親が我が家に来てる時に、そのニュースは入ってきました。僕はたおを父親に任せ、スーパーへ飛び出しました。まだミルクもたまに飲んでいた頃。たおには水は欠かせません。しかしどこも水は売り切れていました。なんとか数日分は搔き集めましたが、心許ない量でした。

そんな翌日。朝、嫁が出かけようと玄関を開けると、そこに大きな箱がありました。それは2リットルのペットボトル6本が入った箱でした。そこには紙が貼られており、大家さんから「ほんの気持ちです」の言葉が…。二階に住む大家さんが、たおのことを心配して、届けてくれたものでした。

この時ほど、人の親切の心を感じたことはありません。偶然選んだ部屋で、そこにたまたま優しい大家さんがいて。僕らが何か優れていたわけでも、何か良い行いをしたわけでもありません。そこにただ優しさがあった。それだけ。

元々人に優しくを考えては生きていますが、優しさの実態、摑めるくらいの優しさを実感して、その思いは強くなりました。そしてまずはすぐ隣にいる人に優しくすべし。それが広がれば、すべての人が優しくなれる。そんな考えを持って行動するようになりました。

優しさって伝染するんだと思ってます。そういえば昨日見た映画「チャッピー」もそうだったな。優しさを伝えなきゃいけない最たるものが子育て。愛情不足がいろんな諍いを引き起こす。愛情を伝えないとね。

今日は隣の人の手をぎゅっ
と握りましょう。本当に握らなくても良いですからね。心で。ぎゅっとね。愛を込めて。