優しい顔

 

 


昨日お昼ご飯を食べて家に帰ると、家の前の道に人が倒れてる。さすがにこれを放っておけるほど俺は冷たくはない。慌ててその人に駆け寄った。

 


「大丈夫ですか?」

 


倒れてる人の顔を覗き込む。すぐに反応はあった。赤ら顔のおじさん。結局はただの酔っ払い。でも動けないからタクシーを呼んでくれと言う。なのでタクシー会社に電話してあげた。でもそのやり取りが聞こえているからか、タクシー会社には断られてしまった。

 


そのやり取りをしてるうちに酔っ払いは起き上がれるようになった。そして俺の顔を見て酔っ払いが言う。

 


「お前、そんな優しい顔をしちゃダメだよー」

 


よくわからないけれど、手を貸して起き上がらせ、タクシーのいる大通りまで連れて行ってあげることにした。酔っ払いは言う。

 


「お前本当に良い奴だなぁ。これから2人で海に行こうぜ」

 


勿論仕事あるから無理だよと断る。お金貸してとかも言うから貧乏だから無いよと断る。こんな酔っ払いには関わらなきゃ良かったとも思うけど、倒れてる人を見過ごすような人にはなりたくない。次は近くの交番に知らせようと頭の中では巡らせていた。

 


フラフラしてるから車に轢かれないように道の端に寄せたり、まあ面倒なことこの上ないけど気を使って歩く。すると近所の蕎麦屋の前。そこは昼から酔っ払う人達の巣窟。

 


「あ、俺ここで呑んでた」

 


酔っ払いはそう呟き、そのまま店に入って行った。店の中でも「もう友達は帰ったよー」とか言われてる。これでお役御免だなと判断。何も言わずに家に帰った。

 


酔っ払いは何度もお前は優しい顔をしてると言った。自分が優しい顔なのかは全くわからない。でもそんなに何度も言うのだからそうなのかもしれない。

 


このやり取りの間、ずっと嫁は心配そうに見ていた。嫁はどう思ったんだろう?優しい人だと思ったのか?それともお人好しだと思ったのか?まあ両方か。人生は白か黒では無い。100%の優しさなんて存在しない。

 


あのおじさんは昨日の出来事を覚えているんだろうか?まあ覚えられて話しかけられても困るんだけど。酔っ払いって嫌ねえ。