おじさん、おじさんに甘えられる

 

 

 

 

地下鉄にて。ドアのそばに立っていたので、駅に着くと降りる人がいないか気にかけていた。その駅はほとんど降りる人がいない駅なので、降りずに様子を見ていた。すると1人のおじさんが奥から出てくる。なので端っこに寄っておじさんの道を開ける。しかし、おじさんは頭を傾けて、駅の名前を確認する感じでノロノロ歩き、俺の直ぐ後ろまで来て、そのまま降りなかった。

 


あ、次の駅で降りるから、その為に早く出口近くに出て来たんだ。用意周到な人だなぁーと思っていた。次の駅で降りたから実際そうなのかもしれない。

 


でも、その傾けた頭が縦に戻ることはなかった。その傾けた頭の方向にあるのは俺の背中だった。広くもたくましくもない背中。そしておじさんの頭は、顔は、頬は、まるで恋人の肩にもたれかかる乙女のように、俺の背中に密着した。背中におじさんの体温を感じた。

 


ん…俺、おじさんに甘えられてる?

 


確かに混んではいた。動き辛いことは間違いない。でも、頭を真っ直ぐするだけで俺の背中は回避出来る。というか人の背中に顔が密着してたら嫌じゃないのか?ねえ?どうなのよ?おじさん。

 


ドアのガラス越しにおじさんの顔を見た。髪も少ない、太ったのに貧相な、色の白いおじさん。メガネの奥は無表情だった。俺の反応を見てたんだろうか?

露骨に嫌な顔をしながら身をよじる。そしてガラス越しにおじさんと目が合った。

 


おじさんは…。ニコリと笑った。

 


そして地下鉄は駅に到着して、おじさんはホームの波に飲まれて行った。おじさんだからいやなわけじゃない。たとえ若い女の子だったとしても…。いや若い女の子はオッケーだ。勿論熟女だって。やっぱりおじさんだから嫌なのか?これは俺の中にある偏見なのか?差別なのか?

 


おじさんの顔の感触は背中に残された。今日はこの感触と共に過ごさなければいけないのだろうか?おじさんの置き土産。そんな置き土産、俺はいらない。

 


たった今体験した、リアルストーリー。