動かざる事山の如し

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一輪車の練習に向かう電車内。ドア近くに陣取る僕らの側に、ドアに張り付いて動かないおじさんがいた。乗る時もその場所を動かず邪魔だった。しょうがなく僕らはそのおじさんの脇ををすり抜けて乗車した。

 

 

 

次にドアが開く時、たおにわざと大きめな声で「邪魔になるから一回降りるからね」と伝えた。おじさんの目の前で。絶対聴こえる大きさで。降りる人は沢山いる。その場所は邪魔になるのは必然。どうする?おじさん?

 

 

 

ドアが開き、それでもおじさんは降りなかった。なので持ってた一輪車をグリグリ背中に押しつけてみた。それでも降りない。結構押したけど降りない。時間がないのでしょうがなくおじさんを避けて降りた。おじさんは最後まで通路を狭めたまま動かなかった。大きい荷物をドア脇に置きたくてとかならわかるけど、荷物は小さなリュック一つ。その場所を死守したい理由がわからない。その場所は結界か何かで、その場所を奪われると悪魔に喰われてしまうのかもしれない。おじさんは恐ろしい世界に生きているんだ。僕は無理矢理そう理解した。あまりに退かないから、悪魔のような顔したおじさんにショルダータックルされてたけど、それでも退かなかった。よろめいたけど、その結界を守り続けた。

 

 

 

そんなに大事な結界なのに、おじさんはすぐ次の駅で降りて電車を乗り換えた。僕らと同じルートで、同じ電車に乗り換えた。これでますますわからなくなった。何故におじさんはあの場所に固執したんだろう?短時間あのドアの横にいる為だけに、何故グリグリやタックルに耐えたのか?意地?もみくちゃにされるのが好きな人?そういうフェチ?

 

 

 

おじさんは乗り換えた電車が発車すると、隣の車両に消えていった。背中をグリグリしたやつと同じ車両にはいられなかったのかもしれない。

いやしかし結局おじさんの真意は分からなかった。おじさんはとにかく動きたくなかった。理由はわからない。理由はないのかもしれない。全てに理由があると思ったら大間違い。おじさんにはおじさんの世界があり、それを理解するには僕はおじさんを知らなすぎる。おじさんはとにかく動かなかった。理由はわからない。

 

 

 

いやでも邪魔だって。