きな粉

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毎日テレビでは闇バイトの話題が繰り返されている。色んなバイトを経験した自分も、そんな世界に引き摺り込まれたかもしれないと思うとゾッとする。結局は闇バイトを経験する事は無かったけど、闇を感じるくらいしんどいバイトは何度か経験した。


よく交通量調査をやった。これは定番の仕事。しかし、これが真冬の深夜となると急に闇の世界が口を開ける。真冬にただ座っているキツさは経験しないとわからない。靴下は2枚、スウェットの上にジーパンを履き、万全の体制で臨んだけれど、それでも凍え死ぬかと思った。とにかく動いてないと足から凍ってしまう。


また、JRの混雑調査というのもやった事がある。ホームに入って来た電車の中に何人乗客がいて、出る時に何人になってるかを数える神技のような仕事。勿論混雑時は全部数えるのは無理なので、区画を区切って数え、それを一両分で計算する。

これは作業自体は辛くない。昼間になると本数も少ないし、そんなに動かない。昼間は2時間交代で、喫茶店に入るお金もなく、ただ駅前のベンチに座り続けるのがキツかった。しかも自分は舞浜駅に配属されたので、周りはディズニーに来た笑顔の人ばかり。1人自分は何をやってるんだろう…?って気分になった。

しかし本当に辛いのはその後。終電まで働いた後、勿論家に帰る手段はない。バイト先が用意してくれた部屋に通される。そこはコンクリートのだだっ広い部屋。軟禁とかに使われそうな殺風景な部屋。そこで、コンクリートの床に横たわって眠る。体は痛いし、靴で歩いている人の横で寝るのはどうかと思うけれど、眠気には勝てない。そこで死体のように横たわって眠った。よっぽど疲れていたのかぐっすり眠り、起きたら誰もいなかった。誰もいない部屋のドアを開け、誰にも言わずに外に出て家に帰った。外は晴れ渡っていて、太陽がとても眩しかった。


あの頃何種類のバイトを経験したかわからない。もっと効率の良い方法はあったと思うけど、そんな事を考えつくような知恵も経験もなかった。ホリエモンは一度だけしたバイトで、夜勤務のおはぎとか団子を作る仕事があり、あれは非効率だからすぐ辞めたみたいな事を言ってた。ああ、それは自分もやった事のあるバイトだ。おはぎにきな粉を一晩中付け続けた。作業着がきな粉の黄色に染まり、社員さんから「おい!きな粉!」って言われた。僕はあの時きな粉だった。名も無ききな粉だった。


名も無き闇バイトの人は、名前を大切にした方が良い。名前をちゃんと呼んでもらえる仕事は、それほど悪くない気がする。気がするけど、気がするだけで、そんなに甘くないかもしれない。おはぎは勿論、きな粉ほども甘くないかもしれない。