昨日は京橋の戸田ビル前のスペースで行われた、蓮沼執太フィルのコンサート「都市と合奏」に行って来た。大学講義のパートナー、森さんが教えてくれて。こういう情報には無頓着だから、本当ありがたい。
蓮沼執太フィル自体は知っていたけど、それほど熱心に聴いていた訳ではなかった。勝手な印象で、サウンドスケープや実験的な音楽の人で、その中でオーケストラ的な音楽もやっている。そんなイメージを持っていた。
しかしこれが見事に裏切られる。全て歌ものだし、とても人懐っこいメロディーで、完全にポップスとして機能する音楽だった。ただ、歌が完全に王様で、演奏が傅く王道ポップスとは違い、演奏も歌と同様に主役として存在する音楽。ヴァンダイクパークスとか、ハイラマズなんかを思い出す。瑞々しい音が、歌と共に解き放たれる。
編成も独特で、蓮沼さんが弾くピアノと歌の他に、ドラム2台、マリンバ、スティールパン、サックス、フリューゲルホルン、ユーフォニウム、フルート、ベース、エレキギター、ビオラ、バイオリン、更には笙までいる。しかも楽器の持ち替えもあり、グロッケンやシンセもあったり、とにかく自由。フリーダム。
面白かったのは蓮沼さんのピアノのタッチ。まるで撫でるようにピアノを弾く。叩きつけるような事は全くない。でも楽団の演奏自体は混沌としたギターノイズが鳴るような所もあり、激しさもちゃんとある。そしてあのタッチから想像するのは、とても丁寧にこの音は織り込まれているんだなという事。繊細なタペストリーのような音楽。
そして特筆すべきは、YMO周りで有名なゴンドウトモヒコさんや、入江陽さんのプロデュースなども手掛ける大谷能生さん、トイポップの世界でよく見かけるイトケンさんなど、腕の立つメンバーが揃っているのに、演奏は隙のないバカテク演奏とかではなく、とても体温を感じる、和やかで優しいものである事。生音の温もりが、聴く人を包み込んでくれた。
音楽は聴く場所によって印象は変わるし、価値も変わる。今回は大都会東京のビル群に囲まれたシチュエーション。ビル前に設置された円形の楽器配置の周りは、雑踏の音、行き交う車や人々の話し声、そしてビルの隙間から見える空。そんなものに囲まれていた。蓮沼執太フィルは、それら全てと合奏して、素晴らしい演奏を繰り広げていた。それがとても楽しく、瑞々しく、自分も参加している気持ちになれた。心が洗われるような気分だった。演奏中、そこら中で踊りまくるAokidさんのパフォーマンスもほっこりしたな。
音楽をただ音楽で終わらせず、空間の中に配置する事で、新しい世界を見せる。とても勉強にも刺激にもなった。また見たいし、話も聞いてみたい。まずは蓮沼執太フィルのアナログを探す所から始めよう。