「ぶらんこ乗り」/いしいしんじ


僕は小説に関してはあんまり冒険をしないので、なかなか新しい作家に出会うことはありません。本を読むのって忍耐力もいるから、面白くない人は極力避けたいんだよね。でも友達にこの作家の感想が聞きたい!と勧められて読んだのがこのいしいしんじさん。もう大当たりですよ。

深いことを文章にしていく時に、深いなりの文章というか、深いなりのたくさんの言葉や状況、難しい言葉を駆使していく小説は多い。もちろんそういう文章もそのカオスと言うか、深い文章の森の中に入っていく良さがあってとても楽しいのだけど、いしいしんじさんの「ぶらんこ乗り」という作品はそんな作品とまったく逆。とってもシンプルで、まるでおとぎ話のように子供でも理解できるそぎ落とされた言葉で文章は進んでいく。でもそれが簡単なことを書いているかと言えばそんなことはなく、心のとても奥の方に小さなひっかき傷を残すような、みんなが大切にしている深い心のどこかに訴えかけるとても染み渡る話で。だれにでも当てはまりそうな感情を、少し夢見心地なお話に乗せ、魔法のように心に残していく。ああ、この人は特別な作家さんだなぁーと思った。

そしてもうひとつ。作詞に行き詰った時にめくる本というのがあります。別にその人の言葉をパくるとかじゃなくて、その文章の中出てくる「窓」とか「風」とか、普通の言葉がすーっと体の中に入って行って、言葉を繋いでくれるんです。今まではよしもとばななさんの「デッドエンドの想い出」とか「とかげ」、村上春樹さんの「中国行のスロウ・ボート」、角田光代さんの「空中庭園」なんかがそんな存在だったんだけど、これで強力な援軍が今回加わった気がします。僕の作詞がドリーミーになったらいしいしんじさんの影響かもしれません。他の作品も読んでみなきゃ。