「オーデュポンの祈り」/伊坂幸太郎

久しぶりの小説をレビュー。

伊坂幸太郎という人は、純文学的感覚とエンターテイメントのバランスがとても良くて。いつもエンターテイメントが強いのに、どこか苦味というか、後味が残るところが気に入ってます。でもだいたい話が面白すぎというかうますぎて、結局そっちの驚きが物語の感想を支配してしまうところが、自分的にはマイナスでした。いやそれって面白い小説ってことだから、普通マイナスにはならないんだけど。

でもこの作品は良かった。そしてこれがデビュー作と聞いて驚き。物語の妙がありながら、心に残るのは、不思議な世界の不思議な人たちの感情。その細かな感情の描写と、スケールの大きな話が同居してるのが見事。その不思議な世界も、どこか僕らの住んでいるこの世界をデフォルメしたところもあり、普通はありえない設定なのに、なぜか心にストンと落ちる。これがスタートとは恐れ入るなぁ。

この人の作品は三分の二くらいは読んでいるはずですが、僕はこの作品と、「死神の精度」が好きかな。まあ全部読みたい作家さんですね。新しい作品をすぐ読みたい!とかではないけれど。