「猫と五つ目の季節」/山田稔明


今週は小説。GOMES THE HITMANの山田君の処女小説を。

ハッキリ言って、作詞家の人が書いた小説ってあんまり好きな小説ないんです。音楽に詩を載せるのと小説ってまったく違うものなので、だいたい借りてきた猫というか、小説家の衣装をまとって出てくる感じがしてそこがいやなんです。だからこの山田君の小説もちょっと遠慮してたんです。山田君のことは音楽家としてものすごくリスペクトしてるから、嫌なところは見たくなかったというか。しかも僕は猫派ではなく犬派だし(苦笑)

でも小説を手に取って読み始めたら、まったく違和感のない小説がそこにありました。物語もミュージシャンの私小説なので、とても感情移入もしやすく。夢中で読んで、すぐ読み終わってしまった。そしてそこには、僕の知ってる山田君がいました。小説家のふりをしてる山田君じゃなく、シンガーソングライターの山田君が。でも小説としてもとても魅力的。僕は電車に乗りながら読んでいて、思わず涙を流すくらい。

この小説は山田君の愛猫、ポチとの生活が描かれているんだけど、猫に対する愛情を書いたことで、恋人との物語にも感じられるし、兄弟との物語にも、子供との物語にも感じられる。誰の心にもすっと入る物語になってる。これは意図したことなのかはわからないけど、作品としてとても間口が広く、とても優しい。愛情を持っている人なら誰にでも心に響く物語。

そしてこの小説最大の魅力は、そこに音楽を感じられて、しかも実際にその音楽が手元にあること。山田君のアルバムを聴きながら読むとさらに入ってくる。アルバムも更に好きになるから、この相乗効果は凄い。これは両方合わせた作品なのかもね。

僕も本をよく読むし、小説にも興味はあって、一度は書いてみようかなぁ、なんて思うことも。でもこんなに見事な物語は無理かなぁ。まあ俺が書いても誰が読むんだ?って話ですが。こんな心が温かくなる小説書けたらいいなぁ。